わたしたちは、まだ成長途中
「もう大人なんだから」 そんな言葉を聞くたびに、どこか息苦しさを感じることはありませんか。
まるで20歳を過ぎれば発達は止まり、あとは経験を積み重ねるだけだと言わんばかりに。
でも本当にそうでしょうか。
ビジネスの第一線で奮闘し、時に挫折も味わってきた私たちだからこそ、知っているはずです。
30代で見えなかった景色が40代で見え、40代では理解できなかった感情が50代で腑に落ちる瞬間があることを。
静かに進む、大人の発達
大人の発達は、子どもの発達とは全く違うものです。
身長が伸びるような目に見える変化ではなく、むしろ内側で静かに進む変化。
それは「視点が上がる」という言葉で表現できるかもしれません。
組織の中で、事業経営の孤独の中で、様々な責任を背負いながら歩む中で、私たちは様々な苦難と向き合い、確実に発達し続けています。ただ、その変化があまりにも静かで、深いものだから、自分でも気づかないことが多いのです。

例えば、3年前なら腹が立った部下の行動に、今では「きっと理由があるのだろう」と思えるようになった自分。
昔なら「絶対に譲れない」と思っていた価値観に、今では「場合によっては」という余白を持てるようになった自分。
これらは些細な変化に見えるかもしれませんが、実は人としての器が広がり、深みが増している証拠なのです。
そしてこの発達は、決して一直線ではありません。
時には後退したように感じることもあれば、突然大きな気づきに出会うこともある。
まるで螺旋階段を登るように、同じような場所を通りながらも、確実に高い位置へと向かっていきます。
この記事では、この「大人の成長」をさらに分解し、多面的に理解を深める内容をお届けしています。
どうぞ引き続きご覧になってください。
心の成長 〜「私」から「私たち」へ〜
「自分」という殻を脱ぐ
若い頃の私たちは、まあ、「自分」が中心でしたよね。
自分の成果、自分の評価、自分のキャリア。自分の気持ち、自分がどう思われているか、自分のモチベーションはどうか。
それは決して悪いことではありません。むしろ、まず自分を確立しそれをコントロールできるようになることは、大人への第一歩だったのです。
しかし、経験を重ね、様々な人と関わり、時には痛みも味わう中で、私たちの心は静かに変化していきます。
それは「自分」から「自分たち」への変化。
- 「自分だけが良ければいい」から「チーム全体が良くなるには」へ。
- 「私の会社が勝てばいい」から「業界全体が発展するには」へ。
- 「今、利益が出ればいい」から「次の世代に何を残せるか」へ。
これは単なるきれいごとではありません。
実際にビジネスの現場で、より大きな視点を持った人ほど、結果的により大きな成果を手にしていることを、私たちは知っているはずです。
共感の器が広がる瞬間
次に、心の成長で最も美しいのは、共感の器が広がる瞬間です。
以前なら「理解できない」と切り捨てていた部下の行動に、今では「きっと家庭で何かあったのだろう」と想像力を働かせられるようになった。
昔なら「競合他社」としか見ていなかった相手に、今では「同じ課題に取り組む仲間」としての側面を見出せるようになった。
これは甘さでも弱さでもありません。むしろ、人間理解の深まりから生まれる、真の強さです。
与える喜びの発見
そして、心の成長の最も深い部分で起こるのが「与える喜び」の発見です。
若い頃は「もらうこと」「得ること」に喜びを感じていました。
しかし、今は後輩が成長する姿を見ることの方が、自分の昇進よりも嬉しく感じる瞬間がある。
クライアントから感謝の言葉をいただいた時の充実感が、売上目標を達成した時の達成感を上回ることがある。
これは「利己性の減少」と表現されますが、それよりも「より大きな自分の発見」と言った方が正確かもしれませんね。
チームや組織、社会の一部としての自分を発見し、そこに深い満足を見出すのです。
認知の発達 〜見える世界が変わる〜
複雑性を楽しむ心
一方で、「認知の発達」は全く違う種類の変化です。
若い頃は「シンプルな答え」を求めていました。
白か黒か、正しいか間違いか、成功か失敗か。
しかし経験を重ねるにつれ、世界はそんなに単純ではないことがわかるようになります。
むしろグレーゾーンにこそ、本当の答えがあることを理解するようになる。
そして、成熟した人は、驚くべきことに、その複雑性を「面倒なもの」ではなく「面白いもの」として受け入れられるようになっていくのです。
パターン認識の精度向上
認知の発達で最も実用的なのは、パターン認識の精度向上です。
- 「この状況は以前にも似たようなことがあった」
- 「この人のタイプなら、こういうアプローチが効果的だろう」
- 「このプロジェクトの進み方を見ると、3ヶ月後にはこんな課題が出てきそうだ」
こうした認識の方法は単なる経験の蓄積を超えていますし、同時に、短絡的な「当てはめ」でもありません。
バラバラに見える出来事の中から共通するパターンを見抜き、未来を予測する力。この力があればそうそう、外しません
まさに「見通しよく」物事を捉える能力です。
メタ認知という贈り物
そして認知の発達の最高峰とも言えるのが、メタ認知の獲得です。
- 「今、私は怒っているな」
- 「この判断には、私の過去の経験が強く影響しているな」
- 「私はこの分野については、まだ知識が足りないな」
こんな感じで、自他の思考や感情を、一歩引いた位置から客観視できるようになること。
これにより、私たちは感情に振り回されることが減り、より適切な判断ができるようになります。
統合する力
「認知の発達」のもう一つの特徴は、異なる分野の知識や経験を統合する力です。
マーケティングの知識と人事の経験と財務の理解が組み合わさって、新しい事業アイデアが生まれる。
東洋の哲学と西洋の論理学とのシナジーにより、独自のマネジメント手法が確立される。
これは単なる知識の寄せ集めではありません。
それぞれの要素が編み物のようにクリエイティブに編み上げられ、全く新しい価値を生み出すのです。
二つの道が交わるとき
興味深いことに、この二つの発達の方向性は、決して別々に進むものではありません。
心の成長が進むと、より多角的な視点から物事を見られるようになり、認知の発達が促されていきます。
逆に、認知の発達が進むと、自分の限界や他者の価値観や文脈をより深く理解できるようになり、心の成長を後押しします。
そして両方の発達がが進んだ時、私たちは「知恵」というものに出会います。
それは、単なる知識でもなく、単なる優しさでもない。深い洞察と温かい人間性が融合した、本当の意味での「大人の知恵」といえるものです。
カジュアルに、でも確実に
この二つの発達は、決して堅苦しいものである必要はありません。
日々の仕事の中で、人との関わりの中で、時には失敗や挫折の中で、私たちは確実に成長し続けています。
肩の力を抜いて、でも本気で。
そんなスタンスで歩み続けることで、心も認知も、静かに、しかし確実に発達していくのです。
ようこそ、成熟への二つの道へ
「心の成長」と「認知の発達」。
この二つの道を歩むことで、私たちは単なる「年を重ねた大人」ではなく、「成熟した大人」へと変化していきます。
それは周囲の人々にとって頼りになる存在であり、組織にとって欠かせない存在であり、そして何より、自分自身にとって誇れる存在です。
最後に教皇ヨハネパウロ23世が語ったとされている言葉をお送りします。

おいしいワインと楽しい会話とともに、この二つの道を歩んでまいりましょう。
それでは、また。